はじめに家族介護には役割分担が必要
まず家族の中で、誰が中心になって介護を行う(キーパーソン)のかを相談し取り決めましょう。
キーP.の意味は、何でもかんでも一人で引き付けるということではありません。
家族で分担して介護を行う場合に主となる介護者をキーパーソンとします。また福祉サービスを受ける際に家族の意見をまとめて、代表し伝えることのできる窓口になれる人です。
なぜなら家族がめいめいに、思い思いの訴えをしたなら、ケアマネジャーなどの支援者は援助の方向が定まらず、混乱を招き適切な支援が行えなくなるからです。
自分の介護力をチェックしてみよう
では、介護を主に行うキーP.の方の自己チェックから始めましょう。
1 | 健康状態は良好か (病気がちや高齢ではないか、夜眠れているか、 食事は摂れているか、疲労が蓄積していないか等) | Yes or No |
2 | 介護に専念できる時間的余裕があるか (子育てや、多忙な仕事をかかえていないか等) | Yes or No |
3 | 介護の意欲があるか(介護をしてうれしいと感じる時があるか それがどんなときか具体的に表現できるか等) | Yes or No |
4 | 要介護者との関係は良好か | Yes or No |
5 | 介護に疲れた時は代りに手伝ってくれる人がいるか (家族でも知人でも関係は問わない) | Yes or No |
次に介護の対象者についてチェックしましょう
6 | 介助なしで食事ができるか | Yes or No |
7 | 介助なしで排泄ができるか | Yes or No |
8 | 一人で衣服の着替えができるか | Yes or No |
9 | 自立で自宅内を移動できるか | Yes or No |
10 | 介助なしで入浴ができるか | Yes or No |
11 | 認知症の症状はないか(あっても軽度か) | Yes or No |
12 | 医療処置はないか(経管栄養や尿道カテーテル等) | Yes or No |
13 | 本人に在宅生活の意欲はあるか | Yes or No |
次に重要になるのが住環境や経済状況についてのチェックです
14 | 自宅かどうか | Yes or No |
15 | 本人の自室があるか | Yes or No |
16 | バリアフリーや手すりなどの安全な移動環境が整っているか | Yes or No |
17 | 公的年金などの収入があるか | Yes or No |
以上の17項目について、yesを1点、noを0点として点数化して介護力を「見える化」してみましょう。
ボーダーラインは6点/17点というところでしょうか。
細かい条件が付加されるのでなかなか項目や点数どおりにはいきませんが、おおよその目安と受け取っていただくとよいでしょう。
ただ6点以下となると、介護者の負担は相当重くなると考えられます。
一人暮らしで介護者がいない、認知症があるなどの場合は家族介護力はさらに低くなります。
また、家族同居や近くにその他の家族、知人や近所のつき合いがあり、本人の意欲も高い場合は介護力は高くなります。
つまり、介護力が低いほど在宅で暮らすのは難しくなるため、入居施設などを検討することになるでしょう。その際、経済力もないということになると、生活保護の申請も検討することになります。
もちろん、そのあたりは専門職がしっかり介入してくれますので心配はいりません。

介護力が低いにもかかわらず放置することは虐待につながる危険性があるため注意を要します。
上記の中で、1点にもかかわらずかなり重い負担になるのが「介助なしで排泄ができるか」ではないでしょうか。介護者が男性の場合は特に尿失禁、便失禁が始まった時にお手上げになることが非常に多いからです。
ケアマネジャーのアセスメントの理由
いずれにしても、早いタイミングでケアマネジャーに相談するのが必要ですが、ある程度介護力を判断できていれば、その後の介護の方向を決定していく際に支援者と二人三脚が出来ることになります。
ケアマネジャーにつなぐ流れは以下の記事にまとめています。
ケママネジャーが初回面談で詳細に日常のことや、ご本人・ご家族の経済状況に至るまでの背景を聞き取るのは、現状を把握するとともに、本人家族にどれほどの介護力があるかを判断するためです。
それを見誤ると当事者の無理や心身負担を強いることになるので、彼らは注意深く丁寧に聴取を行い、その後ご家族に適応する支援の方向を見つけ、ご本人ご家族の意思を反映させながらアドバイスを行っていきます。
同時に介護力に応じて訪問介護や訪問看護、通所サービス等の介護福祉サービスの適量配分を図り、ケアプランに反映させていきます。
何でこんなことまで聞かれるの?と思わず、協力者との意識を持ち出来るだけ正確に答えるようにしましょう。
家族が介護で疲弊しないために
親の介護のために仕事を辞め、独身のまま歳をとってしまい、再就職も出来ず自分の生活が成り立たなくなった女性を多く見てきました。
日本にはまだどこかに、介護は嫁や娘がするものという風潮が残っているのでしょうか。
社会的に職業を持ち、介護はプロの手に任せその費用を稼ぐという選択をする女性も増えてきています。自分の生き方を変えてまで、家族の介護にわが身を投ずるのは決して美徳ではありません。
親の介護が必要になった際、後悔をしない様にあるいはこれまでの恩に報いたいとの思いで、長期休暇や退職を選ぶ方がいますが、介護はあたまで考えるよりはるかに長期戦です。いつ終わるとも知れないという覚悟のうえで判断しなければなりません。
そのためには専門職と共存し、自分の生活は犠牲にしない。長期戦には極力手を抜くことが、結局後悔しない事だと思います。
家族介護にはメリットとデメリットがある
家族の中でも娘が介護をしている光景は、まわりから見ても自然で安心感があり、両者の気持ちもうれしいだろうと思われがちですが、案外そうとも言えないのが現実です。
以前担当していた高齢女性から「娘には排泄の世話はさせたくない。そんな汚れ仕事は他人(ヘルパーさんなど)に頼みたい」と言われたことがあります。
同時に反対の訴えもあり、支援者を全く受け付けず家族介護者が疲弊していくケースも多くあります。
往々にして身内の介護というのは、思いのほか双方の気持ちがかみ合っていないことが多いようです。
介護を受ける側は「(これまで育ててきたのだから)これくらいしてくれてあたりまえ」介護者側は「このくらい我慢してくれて当然」との水面下の思いが交錯しストレスを生んでいくようです。

プロを介入すべき理由
家族にはそれまで暮らしてきた思い出(過去歴)があることが、マイナスに作用する場合が多々あります。
つまり、信頼し尊敬してきた親の姿から何もできなくなった現実をみる、それまでの人格と違う別人のようになるなど、要介護者に変わっていく経緯で幻滅感や悲しみを感じ、介護者には非常につらい場面を見ることになります。
とくに認知症の場合には顕著な変貌があり、その過程で家族には苦悩と苛立ちが起こります。
ご家族介護に特徴的な傾向として「過干渉な介護」と「教育型介護」があります。
さらにストレスが進むと、会話がなくなったりお互いの精神的苦痛からネグレクトになったり、最悪な場合は虐待に進むこともあります。
前者の場合は、介護者が幼児語で対応するようになり、要介護者をまるで子ども扱いに日常の全てに手を出し、本人の残存能力まで奪ってしまうというものです。
後者は、物忘れや高齢による症状を受け入れられず、何度も言い聞かせて覚えさせようとするもので、本人には精神的負荷が大きくかかり、介護者も自分で苛立ちを助長させてしまうものです。
その点、他人(専門職)は以前のご本人を知りません。これが大事なことなのです。
大きな落胆や幻滅を感じることがありませんので、現状から適切な支援を判断しアドバイスや援助を行うことができます。
介護者との距離感はとても大事です。
家族介護はお互いにとって負担になっていることを認識して長期戦に臨みましょう。
介護を楽にするコツは意外と簡単
人が最大限の能力を発揮できるのは「自分が必要とされるとき」「自分の存在を求められたとき」だといいます。
それはたとえ認知症の方の場合も同じです。むしろ一時的に認知症状が緩和されるとも言われます。
自分が役に立つこと、期待される役割があることは人間が生きるための意欲の源です。それがあるからこそ、朝が来たときに「さあ、今日も起きるぞ」と思えるのです。
「今日も起きる目的」を継続できる本人の意欲さえ引き出すことができれば、精神的な介護の苦痛は無くなるでしょう。
たとえば暇つぶしのような作業を繰り返したり、日常生活のすべてを用意されたり、ただ安全な場所で生かされているだけの毎日には、生きがいを感じることはできません。
料理の一品でも、掃除の一端でも自分ですることができて、生活に参加している実感が持てたら、さらに「ありがとう」「助かったわ」などの言葉をかけられたとしたらどうでしょう。

もちろん、そのためには介護者は自分でしたほうがはるかに速い作業を、本人のペースに合わせ見守る必要がでてきます。
ですがそれは、介護の負担を喜びにかえる有意義な時間になるはず。笑顔と意欲を取り戻し互いに喜べる関係を構築することこそ、介護を楽しくすることだと思いませんか。
それこそ、お互いの生き方をずっと見てきた家族にしかできない工夫を凝らしてみてはいかがでしょう。
時々介護をする自分を振り返ってみましょう。
介護をしていてうれしいと感じることはありますか? またそれはどんな時ですか?
「感謝の言葉が聞けたとき」「笑顔を見せてくれた時」などでしょうか。それがたくさんあれば要介護者との関係は良好だと考えることができますが、反対に何も出ない場合は介護をネガティブに受け取っているかもしれません。
👉家族と介護について話す機会を持っているか?
👉愚痴を聞いてくれる人がいるか?
👉外出は出来ているか?
👉息抜きの時間はあるか?
時々立ち止まり、自分に問うてみましょう。
『義務感のみの介護になっていないか』
口をきくこともなく、黙々と目的の処理を行うだけの介護になってしまった家族介護者を時々見ることがあります。
何らかの事情から孤立感を深め、負担が集中しすぎているのに放り出すこともできず、苦痛の中で責任を果たす介護を強いられているのは、どちらにも悲惨な情景です。
とくに男性介護者の場合は、調理や洗濯などの家事を負担に感じることも多く、介護の重荷はさらに大きくなるでしょう。
専門職はあらゆる立場から、介護者の負担が何かに気づこうとしています。要介護者のいない場所で介護者の聞き取りをして、隠れたニーズにも配慮してくれます。
ケアマネジャーと二人三脚で常に変化する状況に恐れず立ち向かい、そのつど問題の解決を図り、いつも健全な心身のキープを心がけて家族の介護にのぞみましょう。